芦北町 観光うたせ船

本場の漁を間近で体験、見学できる遊覧船

芦北のうたせ船を目ざして熊本市内から車で走ること約1時間半、計石港に到着。先日までの雨模様で海のしけを心配していたが、風は殆どなく、波も穏やか、日差しもやさしく申し分のないのどかな秋日となった。船着場の事務所で乗船者の氏名、住所を記入(保険のために必要)後、早速船へ。船と堤防の間に3メートル程の板が渡してあり、その上を伝って船に乗り込むのだが、その日、午前10時頃はちょうど干潮時。海面がかなり下のほうに見えるため、少し冒険気分になる。バランスをくずして落ちないよう、用心深く歩く。そこで船頭さん、奥さんとご挨拶、全員にライフジャケットが渡される。

船のエンジンがかけられ、出発進行。船の速度が徐々に上がるにつれて顔に当たる風もだんだん強まると・・・息苦しくなって少々焦ったが、すぐに慣れた。緑に囲まれた入り江から急に視界が開け、大きな海に出る。さっきの船着場はもう見えなくなっている。それから船は5分ほど走り続け、船頭さんはエンジンを止める。淡い水色の空のかなたに、小島がかすんで見え、その手前には、うたせ船が何艘も遊覧している。4本の竹の棒に括りつけられた白い帆が何とも日本的で、集団でいると戦か交易にでも出て行くような勇ましさである。(うたせ船は戦闘用、交易用ではなく、漁用。16世紀のモデルらしい。)

船頭さん夫婦は、色々なところに縛り付けてある縄を解き、竹の棒を立てたり伸ばしたり、忙しく動き回っている。そうやって帆があげられ、錘のついた網が3つ海に投げ込まれた。それらの作業が終わると、船頭さんの「釣せんね!太刀魚が釣るるよ。」という号令が掛かる。えさになる小魚を見ていると、「きびなごも知らんとや?あた、それでも日本人か!」海の男は言葉尻に迫力があるのだ。そして同時に、針にえさをつけてくれたりと面倒見もいいのである。釣りのやり方自体は至って簡単、錘のついた針の先にえさを付けて釣り糸を海に垂らし、それを手で引っ張り上げていくだけという単純作業なのだが、これがなかなか簡単には掛からない。しかし、何度も同じ事を繰り返していると、握っていた糸がブルンブルンと引っ張られた。「おお!来ました!」(竿、リールを使わない為)ここで、がんばって両手を交互に動かして、できるだけ早く糸を引き上げなければ、魚に逃げられてしまう。結構長いこと釣り糸を手繰り寄せたのだが、何も出てこないし、逃げられたかなと思い始めた頃、ついに銀色の太刀魚が顔を出した。70センチほどの太刀魚を腕の高さまで吊り上げると、背びれがビラビラと波打ってとても美しい。魚の方も何とか逃げようと、かなりの力で暴れる。思わず手を緩めて、海水に落としそうになりそうなのを必死でこらえていると、船頭さんがそれを鷲掴みにした。それからガツンと魚の頭を船の縁に打ちつけると、魚は気絶したようでおとなしくなった。これが太刀魚のしめ方のようである。

そうするうちに奥さんが、昼食を知らせてくれ、皆、船の中央に並べられた食事の周りにあつまる。小エビのから揚げ、かき揚げ、つみれ、刺身、おにぎり、お味噌汁など全て奥さんの手作りである。もちろん、魚は全てここ地元でとれたものなので新鮮で、お味噌汁は出汁がすごくよく出ているし、かき揚げの風味は濃厚だし、漁師さんの料理がおいしいと言うのは本当なのだ。船頭さんはみんなが食事を堪能している間、方角の説明、郷土のニュース、季節によって採れる魚の種類などを話して下さった。

船の上には様々な種類の縄、綱、棒やらが無造作においてあるように見えるのだが、むやみに手伝おうと手を出すと、却って迷惑になるようだ。ご夫婦は全く言葉を交わさず黙々と仕事をする。奥さんは常に船頭さんの様子を見ながら必要なものをご主人に黙って手渡したり、掛け声もないのに、同時に網を引っ張ったりと、ご夫婦のチームワークを目の当たりにして、深く感動してしまう。谷村志穂さんの「海猫」には主人公の女性が漁師と結婚して初めて昆布漁に出た時の過酷な様子が描かれており、それを思い出し、控えめで人懐っこい奥さんに、漁に出るようになった当時のお話を伺った。結婚して、子供が生まれると、義理の両親が病気になり、誰も漁に出る人がいなくなり、自分が夫と共に漁に出るようになった。海の厳しさに何度も泣きながら、それでも30年近くやってきたと、笑顔で話して下さった。

さて、満腹になったところで、船頭さんが網揚げの作業を始めた。ローラーにスイッチを入れ、縄をそこに廻して、少しづつ船に引き上げて行く。その縄の先には網がついているので、そうしているうちに網が海の中から現れ、船の縁の所まで引き上げられると、船頭さんが網の中のもの全てを船の上に放った。皆の歓声が上がる瞬間である。エイと(茶色と灰色の)ウミウシがほとんどなのだが、その中にもイカ、車えび、鯛、かわはぎ、などの魚が混ざっており、ピチピチ跳ね上がる。魚の種類をよく知っているととても楽しい。船頭さんはそれらを魚の種類ごとにバケツに分けながら、これは何の魚で、こうやって食べるとうまいなどを教えてくれる。

帆をたたみ、再びエンジンで船を走らせ、我々は船着場に戻ってきた。さっきの板の渡しを伝って船から防波堤に戻ってみると、4時間しか経っていないのに、港は満潮を迎えているのが分かる。かなり下のほうにあった海面が、今はすぐそこにまで迫ってきている。事務所で発砲スチロール箱と氷が購入できるので、今日の収穫の魚介類を詰め、帰宅の途に着く。その晩は、祖母、母、自分と3世代で獲れた魚を捌くのに大騒ぎとなったが、板前の義弟にも助けられ、刺身と魚介類のバーベキューの宴会となった。

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