京都四条河原町辺り。
木屋町通を高瀬川沿いに南に少し下ると、路傍に洋風の小さな瀟洒な建物が見えて来る。
「フランソア喫茶室」という、何とも優雅な響きのカフェだ。
立野正一が昭和9(1934)年に創業した。
店名は画家志望の立野が影響を受けたフランソア・ミレーという画家にちなむ。
開店して6年後の1940年、立野は店の北側にあった木造家屋を購入し、イタリアバロック風に改築した。
以来、80年の長きに渡って戦中の空襲やその後の自然災害を免れたこのカフェは2003年に国の登録有形文化財(建造物)に登録されている。
立野自身、社会主義者であった。
当時の日本は次第に軍国主義に傾斜して行く途上にあった。
だから、何より言論の自由を求める立野やその周囲の若者たちの熱いほとばしりが、さぞかしフランソアには横溢していたことだろうと思う。
当然の帰結として、フランソアは次第に画家・文学者などの知識人たちが集うサロンとなっていった。
画家・藤田嗣治、映画人・吉村公三郎、伊藤大輔、三隅研次、新藤兼人、演劇人・宇野重吉、滝沢修、フランス文学者・桑原武夫、矢内原伊作など、当時の時代を代表する錚々(そうそう)たる文化人、知識人たちが、足しげくフランソアに通ったものだ。
ドアを開け店内に入る。
赤い椅子と使い込まれた木製のテーブル。天井には丸いバロック様式のドームが美しい。